こんにちは。薬学部の大学職員ゲルバです。
前回までの記事では薬学生の就活の実態や心構えなどについてお話ししました。
ここからはいよいよ薬学生が将来活躍するフィールドについて掘り下げていこうと思っております。今回はその前段として、私たち日本の薬剤師や医療に関わる個別の業界を見ていくうえで、欠かせない大事な視点について整理しておきたいと思います。
(私のがらに合わず)ちょっと堅苦しい話も多くなってしまうかもしれないですが、とても大事なこと、かつ薬学生にとって大いにやりがいになることだと思いますので、ぜひ最後まで読んでいただけると有難いです。
薬剤師 需要と供給
これからの未来でどれくらいの人数の薬剤師が必要とされていく見込みか、ご存じですか?
2021年4月26日に、厚生労働省の「第8回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」という会合で、薬剤師の需給推計が公表されました。https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000772130.pdf)
この内容がけっこうショッキングなのですが、結論から言うと、2045年に最大で12万6000人の薬剤師が供給過剰となる可能性があるとのことです。
薬剤師の需要(つまり業務の量とか)において、今後見込まれる減少要因は、人口減による患者数の減少、薬剤師業務の自動化などがあり、逆に需要増加要因は、高齢化の進展による患者数の増加、業務の範囲の拡大(対人業務の充実・医師からのタスクシフト・各種の連携強化など)があります。
また、薬剤師の供給(つまり担い手となる人)の減少要因は、薬剤師の退職、人口減による薬学生の減少などで、増加要因はとりあえず見当たらない?といった感じです。
これらの需要と供給の変化の幅を考慮し予測した結果が、約20年後の未来で12万6000人供給過剰ということです。2022年3月17日に厚生労働省によって公表された薬剤師数が32万1982人なので、この規模の供給過剰というのはかなり大きなインパクトだと思います。
これだけ聞くと、薬剤師同士の競争は激しくなりそうだし大変そうに思えるでしょう。たしかに競争はあるとは思いますが、それと同時に日本の医療は良くも悪くも課題が多く変化が求められているという点で、社会にとっての薬剤師の役割はこれまで以上に重要になると思っています。そのことについて、次にお話しします。
日本の医療の現状
「高齢化に伴う医療費の増大」
医療に関する各業界で起きているすべての変化・現象の根っこにあるのはまさにこのことに尽きると思います。(社会保障給付費の推移) これを起点に起きている変化として、今回特筆したいのが以下の2点です。
病床機能の再編と病床数の縮減
医療費の増大を抑えるために、医療の現場、つまり病院や診療所では病床機能の再編と病床数の縮減を行う方向の医療政策が進められております。(参考:平成29年10月25日 財政制度分科会資料)<4D6963726F736F667420506F776572506F696E74202D208169736574816A939D8D8794C58169967B91CC8E9197BF816A819A2E70707478> (mof.go.jp)
もともと日本は諸外国と比べると人口当たりの病床数が多く入院期間も長いという現状があり、そういったことも考慮され病床数を減らす方向にあります。そのかわりとして、グラフを見てもわかるとおり在宅医療の充実が求められている状況です。(あと、このグラフにはないですが医療費増大を抑えるうえでもう一つ大事なポイントは「予防」とか「セルフメディケーション」。)つまりそれは、医療サービス提供の現場が病院から社会に移るということであり、ここで薬剤師の役割がこれまで以上に重要になっていきます。
薬価引き下げ
また、同じく医療費の増大を抑えるために、国は薬価の引き下げ圧力を強めているという現状もあります。これについてはちょうどよい参考資料をみつけることができず申し訳ないのですが、薬価改定の頻度が従来の「2年に1回」から「毎年」となることからも引き下げ強化の動きが見て取れると思います。
この影響を悪い方向で受けてしまっているのが製薬業界です。
相当なコストや期間をかけて開発した薬をようやく市場に出しても、日本では薬価引き下げのスピードが速く収益を得ることが難しくなっています。それに対して日本市場で戦っている製薬各社はいろいろな方策でビジネスを守っていく必要があり、ある会社は海外シフトを強めたり、別の会社はOTCの製品の競争力を見直したり、また別の会社は医療用医薬品とは別のヘルスケアソリューションビジネス(健康管理のデバイスとかサービスとか)を新規に起こしたり、などの動きが起こっているように私は感じています。
この現状を受けて、薬学生に求められること
以上の通り、日本の医療は様々な変化の過渡期にあると言えます。
そんな中でこれから医療の世界にとびこむ薬学生に求められることは、月並みではありますが、やはり変化を前向きにとらえて課題解決に挑戦していくことだと思います。
具体的には
・変化を的確に感じ取るための高いアンテナ、好奇心
・従来のやり方を考えなしになぞるのではなく、目的を理解してそれに沿った別のやり方を摸索できる思考力、目的意識
・失敗をおそれずにとりあえずやってみる行動力
・自分なりに解決対象課題や働くテーマを見い出して、日々のちょっとした前進をモチベーションに変えることができる意思の力(楽しむ能力)
などかな、と思います。
「挑戦」なんてたいそうなこと私にできないよ、とひるんでしまう方もいるかもしれないですが、「こんなことやってみたら目の前の患者さんや仲間にこんなふうに役に立つかも、ちょっとやってみよう」みたいな、とりあえず自分にも出来る範囲からの取組みで全然問題ないです。
そういった小さな取組みの積み重ねが患者さんの健康につながり、職場の雰囲気がよりよくなり、地域や社会の前進に寄与していくものだと私は信じています。
それと、変化の過渡期にあるということは新卒の職員にとって有利に働きます。なぜなら、先輩職員も経験のないことにみんなで取り組むことになるから。
薬剤師の需要が減ったとしても、薬剤師が人々の健康に貢献する限り、需要がゼロになることはありません。(そういう意味では、薬学生は薬や疾病の専門家というよりも、健康に関することの専門家という意識を持っていてもいいのかなと思います。)ですので、希望とやりがいをもって自身のキャリアを切り開いていってください。
まとめ
・今後、薬剤師は大幅な供給過剰になる可能性がある
・日本は高齢化に伴う医療費の増大を抑えなければならない
・そのために、医療サービス提供の現場を病院から社会に移すことや、薬価の引き下げが進められている。
・そんな変化の過渡期なので、薬学生には前向きに課題解決に挑戦する心構えが求められる。自分にできる範囲から一歩ずつ取り組もう。
今回は以上です。
ちなみに、(別に誰に求められているわけでもないのですが)自分の考えをひとに分かりやすく伝えるってかなり難しいですね。この記事を書いていて実感しました。極力、正当性の高そうなデータ等を調べたうえでお話ししたつもりですが、上記で述べたことはあくまで私の理解です。その点をご容赦のうえ、異なるご意見などがあれば教えていただけるととてもありがたいです。宜しくお願いします。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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