一歩深読み業界仕事研究 薬局薬剤師

こんにちは。大学薬学部職員のゲルバです。

前回に引き続き業界仕事研究・選考対策です。今回は薬局について掘り下げていきます。今回も更新に時間がかかってしまいましたが、一般的な就活セミナー等では言及されていない多面的で充実した内容を心がけました。

診療報酬改定や薬局業務のデジタル化の動向、就活選考の動向など参考にしてもらえるとありがたいです。宜しくお願いします。

薬局の事業の構造


国民の医療費により成り立っているという点で基本的には病院と同様の事業形態です。

サービス提供先

患者さん(お客さん)

対価(収入)

提供した医療サービスの診療報酬点数に応じて支払われる調剤報酬が薬局の収入となる。その調剤報酬の原資は、国民みんなが毎月負担している健康保険の保険料と公費(=税金)、および患者さんが窓口で払う自己負担金。

主な関係先(患者さん・お客さん以外のステークホルダー)

・厚生労働省

・都道府県(地域の医療計画策定)

・健康保険の保険者(健康保険の運営団体)

・各種メーカー(製薬会社、調剤ロボットメーカー、DX等経営支援サービス事業者など)

・各種納入業者(卸など)

・各種職能団体(医師会、薬剤師会など)

・地域の医療機関(近隣の病院、診療所、薬局、福祉施設など)

・研修生、実習生(派遣元の大学なども関係先)

など

薬局事業の前提

病院や製薬も含め日本の医療業界全体に言えることですが、薬局の事業やサービスが国民の健康保険料によってまかなわれているという点で、市場拡大を目指す性質のビジネスではないですよね。誰も好きで不健康になって医療サービスのお世話になりたいと思う人はいないので、一般的な商品やサービスのように売れれば売れるほど世の中ハッピーというものではないということです。(ただし「医療」ではなく「健康」に主眼を置いて、且つ、国民の健康保険料ではなく消費者の私費で利用してもらうものであれば、利用してもらうほど世の中ハッピーは成り立つと私は思います。)

市場拡大を目指す性質の事業ではないというのは、すなわち国が市場をコントロールしているということです。それが診療報酬改定と薬価改定です。

近年の傾向としては、診療報酬はプラス改定するけど薬価のマイナス改定で相殺し全体として医療費が膨らまないように調整しているように見て取れます。(図録▽診療報酬の改定率の推移 (sakura.ne.jp)

ただし、診療報酬を改訂しても国民の受診行動は予測できないしコロナなどの不測の事態(感染による受診増や感染不安の受診控え)も起こるものなので、日本全体の実際の調剤医療費や処方箋枚数、および処方箋一枚当たりの調剤医療費は年によって増えたり減ったりします。(調剤医療費(電算処理分)の動向~令和3年度版~|厚生労働省 (mhlw.go.jp) gaiyo_data.pdf (mhlw.go.jp)

このように、国は医療費の拡大を抑制するために診療報酬や薬価をコントロールしているわけですが、それと同時に薬局・薬剤師に対して目指すべき理想像を示しています。それが2015年に厚生労働省から示された「患者のための薬局ビジョン」です。

「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました |報道発表資料|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

詳細は上記リンク先を読んでほしいと思いますが、基本的な考え方を以下に抜粋します。

患者本位の医薬分業を実現するという本ビジョンの趣旨・目的に即し、ビジョン全体を貫く基本的な考え方は、以下の通りである。

 ① ~立地から機能へ~

 ・ いわゆる門前薬局など立地に依存し、便利さだけで患者に選択される存在から脱却し、薬剤師としての専門性や、24 時間対応・在宅対応等の様々な患者・住民のニーズに対応できる機能を発揮することを通じて患者に選択してもらえるようにする。

 ② ~対物業務から対人業務へ~

 ・ 患者に選択してもらえる薬剤師・薬局となるため、専門性やコミュニケーション能力の向上を通じ、薬剤の調製などの対物中心の業務から、患者・住民との関わりの度合いの高い対人業務へとシフトを図る。

 ③ ~バラバラから一つへ~

 ・ 患者・住民がかかりつけ薬剤師・薬局を選択することにより、服薬情報が一つにまとまり、飲み合わせの確認や残薬管理など安心できる薬物療法を受けることができる。

 ・ 薬剤師・薬局が調剤業務のみを行い、地域で孤立する存在ではなく、かかりつけ医を始めとした多職種・他機関と連携して地域包括ケアの一翼を担う存在となる。

「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました |報道発表資料|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

つまり、薬に関するサービス提供の拠点を地域に構え他職種と連携しながら薬剤師がそれを支える存在になりましょう ということだと思います。

ちなみに、診療報酬と薬価を国がコントロールしていることは前述のとおりですが、ということは薬局業界全体の市場規模が国にコントロールされているということです。

薬剤師は国民の健康を支えるうえで不可欠な存在であることは間違いないので、頑張ったらその分だけ会社の業績も個人のお給料も右肩上がりに成長していきたいですよね。

ではどうやってその成長を実現していけるか。考えてみます。

商売の基本に立ち返ると 売上=数量×単価 ですよね。

薬局に置き換えると 売上=処方箋枚数×処方箋単価 です。

前述の通り、処方箋単価は国に管理されていて単価増が容易には見込めない(というか一薬剤師の裁量でコントロールできるものではない)ので、処方箋枚数を稼ぐことが必要です。ただし患者さん一人当たりの処方箋枚数が増えることはその方が健康な状態から遠ざかることを意味するので意図すべきことではありません。となると、患者数を増やすというと語弊がありますが、一人でも多くのお客さんに自社の薬局もしくは自分という薬剤師を選んでもらえるよう、顧客満足度や業務品質向上を目指すことがあたりまえではありますが最も健全な方向性だと思います。

実際に多くの薬局チェーンがM&Aにより他社を取り込んだり、薬剤師の専門性や接遇向上の人材育成に力を入れたり、業務オペレーションの改善により患者さんの待ち時間削減や利便性向上に取り組んでいるのは、いずれも顧客獲得に向けた動きだと思います。

また、会社だけでなく薬剤師個々人としても、患者さんというか地域の市民に向き合って健康に関する啓発活動に取り組んでいたり、効果のある取組みを薬剤師団体を通して仲間たちに水平展開したり、大学や研究機関と組んで新しい取組みの社会実験を行っているなどの例がたくさんあります。(そのような取組みが新たに医療行為として認められて診療報酬点数がつくように これまでもこれからもなっていくんだと思います。)

こういったことを踏まえると、結局一番大事なのは薬剤師の対人業務によって生み出される付加価値であり、薬局薬剤師さんのお仕事はとても創造的かつ挑戦的なものだなと強く思います。

薬局を取り巻く環境の変化

昨今、医療業界はDXなどさまざまな変化の過渡期にありますが、薬局についても以下のような動きがあります。

オンライン資格確認

マイナンバーカードもしくは健康保険証により患者の医療保険の資格情報をオンラインでタイムリーに確認できる。また患者の同意に基づき過去の薬剤情報や健康診断の情報も確認できる。薬局を含めた医療機関はこの仕組みの導入が原則義務付けられており、2022年より運用開始済み。

オンライン診療・オンライン服薬指導

パソコンやスマートフォン等の情報通信機器を活用して遠隔で実施する診療および服薬指導。まだまだ制約はありますがいずれも運用開始済み。

電子処方箋

これまで紙で発行していた処方せんを電子化したものです。患者さんが電子処方せんを選択し、医師・歯科医師・薬剤師が患者さんのお薬情報を参照することを同意することで、複数の医療機関・薬局をまたがる過去のお薬情報にもとづいた医療を受けられるようになります。2023年1月から運用開始予定。薬局は導入するためにはオンライン資格確認の導入が必要。

電子版お薬手帳

全国的にお薬手帳の電子化が進められておりさまざまな仕様のサービスがある。2016年に日本薬剤師会が異なる電子お薬手帳サービス間の情報を相互閲覧できるようにする「e薬Link(イークスリンク)」の提供を開始している。

調剤外部委託

薬剤師の対物業務の効率化を図り対人業務に注力できるようにすることを目的に、調剤業務における調製業務の一部を外部委託する検討。2022年6月厚生労働省によって開催された「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」にて、外部委託に関してはまずは一包化業務に限定し委託先は委託元薬局と同じ三次医療圏内とする、というとりまとめ(案)が示されており、今後法制化に向けた検討がなされる段階。

アマゾンの参入

2022年9月5日付 日本経済新聞記事抜粋

患者はオンライン診療や医療機関での対面診療を受けた後、電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で薬局に申し込む。薬局は電子処方箋をもとに薬を調剤し、患者にオンラインで服薬指導する。その後、アマゾンの配送網を使って薬局から薬を集荷し、患者の自宅や宅配ロッカーに届ける仕組みを検討している。
医療機関や薬局まで足を運び、それぞれで順番を待つ必要がなくなるため、持病の薬を定期的に受け取る患者らへのメリットが大きい。
アマゾンジャパン(東京・目黒)は取材に「コメントは差し控える」と回答した。
オンライン診療やオンライン服薬指導を巡っては、新型コロナウイルス禍の特例措置で初診や初回指導でも利用可能になった。今春、そうした特例が恒久化し、電子処方箋の運用開始も決まったことで、ネットで完結したサービスが可能になった。
処方薬は公定価格のため、送料以外の患者負担は大きく変わらない。自宅との近さなどをもとに、アマゾン側で患者のニーズに合わせた薬局を紹介するとみられる。

Amazon、処方薬ネット販売に参入 中小薬局と患者仲介: 日本経済新聞 (nikkei.com)

などなど。以上のトピックスは時系列順ではありませんが、患者さんが病院で受診するところから薬を受け取る流れをイメージした順番で紹介しました。

これらの動きを踏まえると、(それが良いか悪いかは別として)患者さんによっては受診から薬の受け取りまでが完全にオンラインで完結する仕組みになる可能性も大いにあると思います。

そうなると、薬局にとっては何が起きるか。

これまでは、薬局チェーン各社は店舗の立地(敷地内、門前、モール型、駅前、居住圏、etc)や店舗の数など物理的なアクセスのしやすさを他社との差別化ポイントとしていた側面が少なからずありますが、患者さんの受診行動がオンライン化するとそのような差別化は無効化されかねないということです。もしアマゾンがプラットフォーマーとして覇権を握るなら、薬局各社はアマゾンサイト上でのレコメンドによって顧客獲得競争を戦うことになるかもしれません。

最終的にどのような市場環境になるか正確に予測することは難しいですが、少なくとも薬剤師としては対物業務だけでなく対人業務も含めたサービスの品質を磨くこと、つまり患者さんの健康増進に向けたあらゆる施策を考え抜いて積極的に実行するバイタリティが求められることは間違いないと私は思います。

どうでしょう、不安になってしまいますか?

私は薬剤師ではなく一介の大学事務職員に過ぎないので偉そうなことは言えないですが、「上等じゃないか」という気分です。変化があること自体は何も変化が全くないよりよっぽど良い、社会がより良くなるために新陳代謝は必要で、そういった環境でこそこれから社会に出る若い人の力が存分に活かされると思っています。これからの健康な社会を引っ張る力強い薬剤師さんをどんどん輩出する大学となれるよう私も頑張らねばと思います。(すみません余談でした。)

薬局薬剤師の仕事内容 やりがい

さて では、薬局薬剤師の具体的な仕事内容とやりがいを見てみます。

基本的な仕事内容をタスクに分解すると、

・処方箋受付

・処方箋監査

・薬歴・お薬手帳の確認

・疑義紹介(あれば)

・後発医薬品への変更の確認

・調剤

・調剤監査

・服薬指導・交付

・お会計

といった流れですが、このフローの根底に「患者さんの健康な日常生活を支える」という役割があることを忘れてはなりません。

そして、薬局薬剤師の仕事のやりがいは、以下のようなものだと思います。

・患者さんの状況を把握するうえで、病院ほど検査値などの定量的な情報がない分、患者さんの主観的な訴えや生活状況を把握するヒアリングやカウンセリングの力が求められる

・長期的に特定の患者さんと関われる。徐々に信頼関係を築いていくことのやりがいを味わえる。

・お店を切り盛りする楽しさや苦労を味わえる。(仕入れ/在庫/販売のサイクル、店内の雰囲気の改善、業務効率の改善、人員配置の工夫、同僚との一体感、地域の人たちの認知度を高める工夫、etc)

・地域を舞台にした他職種連携(医師、ソーシャルワーカー、看護、介護、栄養、近隣薬局、ボランティア、etc)

こうしてみてみると、健康とか疾患とか薬の知識はもちろん必要だし、患者さんと信頼関係を築いて対話する能力も求められるし、経営の視点もあったほうがいいし、地域や社会の状況や課題を感じる力とか、地域の社会資源と繋がるもしくは患者さんを繋げるといったコーディネートの能力も求められますね。

大変そうだと捉えるかやりがいと捉えるかは人それぞれですが、これらのことを意識しながら主体的に働いてる人は薬剤師としてだけでなく社会人としても強い競争力を持つのは間違いないと思います。

薬局選びの際のチェックポイント

各薬局を調べたり見学して回る際には以下のポイントを意識すると良いと思います。

《国が薬局に求めている事への対応状況》

「患者のための薬局ビジョン」を踏まえた薬局経営になっているか。「かかりつけ薬局が持つべき3つの機能」として挙げられている「服薬情報の一元的・継続的把握」「24時間対応・在宅対応」「医療機関等との連携」について具体的にどんな取組みをされているか聞いてみると良いと思います。

《誰のどんな課題解決に貢献しようとしている会社か》

言い換えるなら、何の実現を目指している会社なのか、ということであり、このようなことが他社との差別化にも大きく影響します。それは以下のようなことから読み解きます。

・社長のメッセージ

・統合報告書や決算説明資料

・売上構成(全体の売上に占める調剤売上の割合。調剤以外の売上があるならそれは何でどれくらいか。例えば、OTCや健康関連商品等の物販の他、大手であれば自社で後発品製造をしていたり、医療従事者の派遣・紹介事業をしていたり、医療機器リース事業、開業医へのコンサル事業、介護・福祉、給食サービス など、薬局の会社が調剤以外にやっていることは、場合によっては調剤がメインでない場合も含め、けっこう多岐にわたります。)

・売上や利益等の経年変化(直近の業績(点)だけでなく過去から現在の変化(線)を見ると、その会社の取組みがうまくいっているのか否かの雰囲気が掴めます。)

・薬剤師の人数(マンパワー的に無理のないオペレーションができているか)

・現場、店舗の雰囲気(会社の方針が担当者レベルまで浸透しているか。会社の方針を実現するために現場では具体的にどんな取組みがなされているか、患者さんにはどう接しているか。社員個人はどんな自己研鑽をしているか)

採用試験の概要と注意点

※時期や試験内容は年によってけっこうかわります。以下は24年卒を念頭に書いています。

おおまかな流れとしては、5年生の12月・1月くらいからインターンシップをきっかけとして学生と企業のコンタクトが本格化し、履歴書・エントリーシート提出、面接(1~2回)を経て内定となります。

内定の出始めは2月くらいで、大手であれば6月くらいに採用活動を終えてしまうところもあります。大手以外であれば夏以降でも個別のコンタクトに応じて採用選考をしてくれるところは多くあります。

いくつか注意点を以下に挙げます。

・Ⅳ期の実習の方は、自分は実習で身動きが取れない中で周囲の友達は就活を進めていて焦る気持ちを持ってしまうかもしれませんが、焦らなくて大丈夫です。どの会社も多くの薬学生と接点を持ちたいわけですからⅣ期実習終了後にこそ採用活動の本格始動を置いており、チャンスは平等にあります。また、自身のキャリアを考えるうえでも選考に生き残るうえでも「実習で何を考え何を学んだか」はとても重要なことです。くれぐれも、焦って実習を疎かにしてしまうことのないよう気をつけてください。大丈夫です。

・選考活動と気づかないくらいカジュアルなコンタクトで選考されていますので、油断せずに利用しましょう。「面接」ではなく「面談」と称したり、「選考前のお悩み相談」とか「エントリーシートの書き方、面接のアドバイス」みたいなアプローチでしっかり人柄を見ていますので気をつけてください。

・数年前までは資格さえ取れるならどんな学生でも内定はもらえましたが、23年卒の代くらいからけっこう厳しく選考されています。(考えが合わなければ優秀な学生でも選考に落ちることが普通にあります。)しっかり自己分析、業界・会社研究をして選考に臨みましょう。特に、病院の滑り止めの感覚で薬局を受ける人やドラッグストアとの違いが認識できていない人は危ないです。別の記事(薬学生 就活 病院 | 薬学生ト学ブ (gakugaku.biz))でも述べているように、病院と薬局とドラッグストアの役割はそれぞれ異なりますが、そのことを理解していない学生がなかなか多いように思われます(病院志望者であれば「病院のほうが専門性が高い」と思っているなど)。病院・薬局・ドラッグストアそれぞれの役割を理解したうえでどの仕事にも甲乙つけがたいくらいやりがいを感じる という場合はまったく問題ないですが、少なくとも薬局のことをよく理解したうえで薬局の選考を受けないと無駄骨になるリスクがあります。

・どんなに優秀な人でも選考に落ちることは普通にあり得ますが、それは優劣ではなく単純にご縁です。いちいち動揺せずにやれることを前向きに進めていきましょう。

まとめ

盛り込みすぎでまとめるのが大変ですが、以下にまとめです。

・薬局事業は収入の面でも目指すべき方向性の面でも国の方針の影響を強く受ける。

・現在はオンライン化や効率化の観点で薬局薬剤師の仕事のしかたが大きく変わろうとしている転換点。

・これらを踏まえると(踏まえても)結局一番大事なのは薬剤師の対人業務によって生み出される付加価値。国や社会の状況・ニーズに敏感になり誰にどう貢献するか常に考えよう。

・就活の選考はこれまでとは異なり舐めてかかると普通に落ちる。その業界のこと企業のこと、そして自分のことをよく理解して、選考に臨みましょう。そしてたとえ落ちても一期一会、常に前向きに。

以上です。

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

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