一歩深読み業界仕事研究 病院薬剤師

こんにちは。大学薬学部職員のゲルバです。

今回は薬学生の代表的な進路先の一つである病院について、業界研究や選考対策などの深掘りを行っていきます。

他の就活セミナーなどではあまり言及されないような捉え方も交え、極力わかりやすく多面的に説明しておりますので、ぜひ参考にしてください。

病院の事業の構造

病院のビジネスモデルというと語弊があるかもしれませんが、病院の事業の仕組みをおさらいしておきましょう。

《 サービス提供先(顧客) 》

言うまでもなく、患者さんですね。

《 対価(収入) 》

提供した医療サービスの診療報酬点数に応じて支払われる診療報酬が病院の収入となる。その診療報酬の原資は、国民みんなが毎月負担している健康保険の保険料と公費(=税金)、および患者さんが窓口で払う自己負担金。

《 主な関係先(患者さん以外のステークホルダー) 》

・厚生労働省

・都道府県(地域の医療計画策定)

・健康保険の保険者(健康保険の運営団体)

・各種メーカー(医薬品、医療機器など。治験の会社もここに含まれる。)

・各種納入業者(卸など)

・各種職能団体(医師会、薬剤師会など)

・地域の医療機関(近隣の病院、診療所、薬局、福祉施設など)

・研修生、実習生(派遣元の大学なども関係先)

など

当然と言えば当然ですけど、こうしてみると薬学生の進路先となる多くの業種・職種が病院に関わっていることがわかりますね。実務実習では医薬品とか臨床のことはもちろんですが、上記の関係先も連想しながら多様な見方で学べるとより有意義な機会に出来ると思います。

薬局・ドラッグストアとの役割分担

薬剤師にとっては、薬局とドラッグストアも診療報酬(調剤報酬)を収入源としている点で病院の仕事と繋がっています。

では、それぞれがどのような領域に住み分けしているのか、以下のような捉え方ができると思います。

ドラッグストア、薬局、病院 ともに広い意味での医療サービスを提供する点で共通しており、患者さんにとって医療サービスへの依存度で住み分けがなされていると言えます。

この図のような捉え方をした際に、それぞれは

◆ 病院

病気やけがの治療をする役割

◆ 薬局

病気やけがを抱える人の療養生活を支える役割

◆ ドラッグストア

何らかの療養中である人もそうでない人も含め人々の健康な日常生活を支える役割

というように役割分担している、と言えるのではないでしょうか。

ちなみに学生や教員と話していると、「病院の仕事ほうが薬局の仕事よりも専門性が高い」というようなことを漠然と言う方がけっこういますが、それぞれ役割分担していて業務の中身は異なるので必ずしも同じ尺度で専門性は測れないよなと思います。(例えば薬局であれば病院よりも在宅医療の専門性が高い など)

そして病院に話を戻すと、この軸で捉えるならば病院は「病気やけがの治療をする役割」つまり「人々の健康を支えるゴールキーパー」といえる存在だと思います。

病院の種別(区分)

では次に、病院の種類について見ていきます。

1つ目の分け方は、病院の機能別です。先ほどの「患者さんにとっての医療への依存度」軸の延長とも言える分類です。

それぞれの大まかな役割は以下の通りです。

◆ 一般病院 

かかりつけの病院 患者さんから見ればはじめの相談先 町の診療所や病院がここに該当します。

◆ 地域医療支援病院 

かかりつけ医等からの紹介患者の対応(逆紹介もしかり)、救急医療の提供、かかりつけ医等の支援(医療機器の共同利用等)、医療従事者の人材育成。地域の公立病院や赤十字系や、よく見る医療グループ病院などが該当します。

◆ 特定機能病院 

高度医療の提供、新たな治療の研究、研究者の人材育成。大学病院などが該当します。

また、その他にも、就活の際には気にしておいたほうが良いと思うのは、公立と私立(民間)の違いです。意外にこの違いが仕事の内容や目指すものの方向性に関わってくると思います。

◆ 公立病院 

地域社会の医療のニーズに応えるべく公共性の高い医療提供体制を整えている病院。裏を返せば、採算のとれない医療サービスも提供できるようにしているなど効率性に課題がある場合もある。(参考: 424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表: 日本経済新聞 (nikkei.com) ) またさらに裏を返せば、行政がその気になれば、公立病院の資源を活かして採算度外視で社会にとって必要な医療提供体制を拡充することができる。(コロナ病床が良い例。 病院への指示権限強化へ 政府、コロナ対応検証に着手: 日本経済新聞 (nikkei.com) )

◆ 民間病院(私立病院)

民間ならではの機動力や経営資源などを活かして独自のポリシーで医療サービスの提供が出来る。(わかりやすい例でいえば、富裕層をターゲットにしたサービス品質の高い医療ビジネスなど。その他にも、急性期患者の受入体制に強みがあるとか、福祉との連携に強みがあるとか、さまざまな経営母体があります。)地域社会にその付加価値を認識してもらうことができれば、特定の層の支持を受け安定的な経営に繋げられる。

あらゆることが公立vs私立の二元論に分けれられるものでは当然ないですが、何が言いたいかというと、1.公立だからといって経営が安定しているとは限らないので、その病院の経営状況や強み・独自性はしっかり把握しよう ということと、2.医療を公共サービスと捉えるかビジネスと捉えるか、とか、医療従事者としての常識に従うか患者・家族の意向を尊重するかなどは、人によっても病院によっても考え方が異なるところだと思いますので、職場の同僚との価値観の違いで余計なストレスを感じることのないよう、その病院のポリシーを事前にしっかり確認しておくことが大切 ということです。(当然この点は志望動機にもダイレクトに影響します。)

病院薬剤師の仕事の内容、やりがい

では次に、病院薬剤師の具体的な仕事の内容を見てみます。

以下のように箇条書きにしてみると、そんなこと知ってるわ という感覚の薬学生が多いかと思います。

・調剤

・製剤

・医薬品管理

・医薬品情報管理・提供

・薬剤師外来

・病棟業務

・薬局との連携

・チーム医療

・治験業務

ではこれを以下のように分類してみると、少し新鮮な感じがしませんか。

一点おことわりとしては、上記の図で各業務が四象限のどこに位置するのかは私の感覚でポジショニングしたので正確なところはわかりませんし、恐らく病院によっても異なるのではないかと思います。

別にこのエリア分け以外にも業務の捉え方は自由ですが、各業務を箇条書きで捉えるよりもいろいろな相関で捉えると、仕事分析も自己分析もより深まると思います。

「自分はどのエリアの仕事に関心が強いのか、それはなぜか」「貴院の薬剤部はどのエリアの業務を強化しようとしているでしょうか」など、いろいろと考えてみることをお勧めします。

また、病院薬剤師ならではのやりがいとして、(実務実習が終わった後の学生さんから)よく聞くのは以下のことなどです。

・カルテや検査値など、患者さんに関する情報が定量的に得られる

・短い入院期間中に患者さんへの処置や対応の効果が実感しやすい

・他職種との関わりの中での薬剤師の役割を実感しやすい

自分にとってどんな仕事にワクワクするかは結局は好みの問題です。病院薬剤師を志望する学生さんの考えを聞くと、「医療ドラマみたいにスピード感があってかっこいい」とか「薬剤師さんが医師や看護師にめちゃくちゃ頼られていてとにかく憧れる」とか「講義で習ったあの科目とこの科目がこんなふうに結びついて現場で活かされているというのが実感できて興奮した」など、等身大のコメントが出てくることがけっこうありますが、そういう純粋な気持ちを話してくれるときこそ目が輝いていて、人材としてとても魅力的に感じられるものです。

選考の面接で話せる志望動機はどんなことかな と考えるのはまだ先でも大丈夫ですが、とりあえず純粋に、自分って何をしているときに気分がノッていいパフォーマンスができるかな それってなんでかな という感じでじっくり考えてみることがとても大事だと思います。

病院選びの際のチェックポイント

ここまでのお話しと重複するポイントもいくつかありますが、病院選びを進めるうえでの主なチェックポイントを以下に挙げます。

・都道府県の医療計画、地域の課題

・病院の種別

・その病院の特色、理事長、院長、薬剤部長が目指すもの(誰のどんな課題を解決しようとしているか、社会にどんな貢献をしようとしているか)

・地域で競合する病院

・職場の人員数、年齢構成、職員の考え方(上層部が言っていることと現場での実践との整合がとれているか)

・役割分担とローテーション(希望する業務を担当させてもらえるチャンスがあるか)

・地域の薬局との関係

私の主観ではありますが、お給料とか福利厚生も大事ですがそれよりも「誰のどんな課題を解決しようとしているか、社会にどんな貢献をしようとしているか」のポリシーにこそこだわるべきだと思います。お給料や福利厚生は世の中の動きによっていくらでも変わりうるし、なんなら共働きとか副業とか投資など補う手段が他にある。でも、勤め先のポリシーや文化は簡単には変わらないうえに満足できない場合に補う手段はなかなかないと思うからです。

でもこれも人それぞれですね。この機会に自分のこだわりを考えてみてください。

採用試験の概要

【スケジュール】

※選考スケジュールは年によって変わることがありますので注意してください。ここでは24年卒を念頭に説明します。

人気の高い大都市圏の大学病院等の場合は、5年生の2月3月:説明会、4月:応募書類提出、5月6月:面接~内定 といったスケジュール。

それ以外の地域の中核病院等の場合も、だいたい2.3.4月くらいで説明会があり、5.6月で選考というのがオーソドックスです。中にはそれでも募集人数の確保に至らず、夏以降で再度募集をかける といったスケジュールになる病院がけっこうあります。

地方になるほど「応募があり次第随時選考」といった傾向が見られるが、都市圏でもあえてピークの時期をずらして選考している病院もあり、1年を通してどこかの病院に応募する機会はあります。

仮に最初に受けた選考に落ちたとしても、何法人か受けるうちに病院を見る目や自分のPRが磨かれて、結果的に最後に受けた病院が一番納得できるご縁になった なんてケースもあります。6年生は、卒論や国試対策で大変な1年間ではありますが、最悪、国試後でもご縁を見つけることは可能なので、焦らなくて大丈夫です。

ただし、早い段階から見るべきポイントがわかっておくほうが良いので、5年生の実習より前に1つかできれば2つくらいは病院見学に行っておくと有意義だと思います。

【選考のステップ】


だいたいの病院が以下のような選考ステップです。

 ・書類提出

 ・筆記試験(適正試験、一般教養、専門試験)

 ・小論文

 ・面接(1回もしくは2回程度)

【選考対策】

最重要は人物像。日ごろから“目指す薬剤師像”などについて考えているうえで、それを応募書類、小論文、面接で適切に伝えることができれば大丈夫。

学力については、国家試験に落ちるリスクを測られるという意味で疎かにはできないですが、採用試験の時点で国試合格レベルの成績でなくとも大学の講義についていけているレベルがあれば問題ないです。

適性検査や一般教養に不安がある場合は、マイナビの模擬試験(適性検査対策WEBテスト – 就活準備 – マイナビ2024 (mynavi.jp))や市販の参考書などで一度体験しておけば大丈夫だと思います。

2月中旬くらいまでは、情報収集をしながら「どんな職場で働きたいか」「どんな強みを活かしたいか」「どんな人にどんな貢献がしたいか」などについて頭の整理をしておくとよいです。説明会参加、友達や先生とのコミュニケーションなどが有効。実務実習でなにを学んだかを振り返ることもけっこう大事です。

2月後半くらいから、エントリーシートや小論文を書いてみる練習を積む。小論文の既出テーマは大学のキャリアセンターに聞くと情報が得られると思います。

面接対策は友達との面接ごっこやキャリアセンター職員に模擬面接をしてもらうことが有効です。(日ごろから自分の中に考えがある人であれば笑顔で元気に自然体の会話ができれば多少緊張していても全く問題ないので、作法とか言葉の表現などのテクニカルな意味での面接対策は個人的にはあまり大事だとは思っていないです。)

【情報収集・コンタクトのしかた】

インターネットで地域の課題や目当ての病院のポリシーなどを調べたうえで、説明会や病院見学に参加し生の情報を得ることが、オーソドックスですが一番理解が深まるやり方です。

説明会や病院見学会が開かれていない場合でも、自分からコンタクトすれば都合をつけて個別に見学させてくれることも多いです。

ホームページに乗っているメールアドレスか電話番号に問い合わせてみましょう。

メールであれば発信するタイミングに気を使わなくても大丈夫ですが、薬剤部に電話する際は月曜の午前などの忙しそうな時間帯は避けたほうがよいです。人事部門が窓口である場合は業務時間内であればとくに時間帯を選ばなくても大丈夫です。

この問合せの際も、事前にホームページをよく見て、読めばわかることを聞いてしまわないように気をつけてください。

まとめ

・病院単体についてのみ着目するのではなく、地域社会でどんな役割を担っているのか から着目し、それを実現する意識が現場の職員さんまで浸透しているか という順番でフォーカスしたうえで病院選びを進めるとよいです。

・選考で重視されるのは人柄です。だれにどんな貢献がしたいか、自分が目指す薬剤師像についてとことん考えてみてください。

・多少就活が長くかかることはあるかもしれませんが、考えを持って進めていれば良いご縁は必ず見つかります。焦らずじっくり取り組んでください。

以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

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